MODEL PLAN

岡山から考える─風と光が織りなす「Geometry Nodes(地理学との結節点)」とは
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私たちの住む地球は、広大な宇宙に浮かぶ太陽系の惑星の一つです。
太陽という巨大な恒星から放たれる「光」と「熱」のエネルギーは、地球上の生命活動の源であり、あらゆる自然現象を司る根源的な力です。
地球は、その自転軸の傾きによって四季を巡らせ、太陽との距離のわずかな変化も伴いながら、絶えず宇宙空間を旅しています。
そして、地球上でその光と熱の恵みがどのように分配されるかは、地域の地形や気候に大きく影響されます。
まさにここ「晴れの国・岡山」は、その典型的な例と言えるでしょう。太陽から降り注ぐ光と、地球が受け取る熱。
それらが、この瀬戸内海という特異な地形、そして中国山地と四国山地という「自然の屏風」によって、この地域固有の豊かな風土を織りなしています。
太陽系レベルで見れば小さな地球の、さらに小さな一点である岡山において、
山々が季節風を遮り、雨雲を遠ざけることで、年間を通して穏やかな気候と豊富な日照時間がもたらされます。

私たちは、日々この「晴れの国」の恵みを肌で感じています。
それは、遠く離れた太陽から届く光と熱が、地球の自転、公転、そしてこの地の地形と作用し合い、生み出された奇跡的な環境です。
私の考える「Geometry Nodes(地理学との結節点)」は、この壮大な宇宙的、そして地球規模のプロセスが、岡山という特定の場所でいかに具現化されているかを問い直します。
建築は単に人間が住まう箱ではなく、太陽から始まり、地球の運動を経て、
この地の地理的条件によって形成された「風と光」という見えないエネルギーを、空間へと織り込む結節点となり得るのです。

干拓地の記憶と未来を紡ぐ建築。この土地は、干拓によって「創造」されました。
かつて海であったため、液状化リスクを伴う軟弱な地盤であり、深い支持層まで達する強固な支持杭が必要です。
19世紀初頭の地図と現在の地図を比べれば、海が陸へと姿を変えた、劇的な変化を見ることができるでしょう。
まさしく、この土地そのものが「記憶の建築」であり、その変遷は、私たちが建築に何を問いかけるべきかを教えてくれます。
そして、この干拓という歴史的背景は、地盤が軟弱であるという現実を私たちに突きつけます。
岡山では、住宅レベルでも10〜20本程度の杭を、10〜20mもの深さの支持層まで打ち込むことが珍しくありません。
そこで生まれたのが、杭基礎をあえて地上に露出させ、その上に木造のフレームを直接配置するというアイデアです。
一般的な住宅では高額となりがちな鋼管杭や、他の地盤改良・免震工法も検討される中で、
私たちは『風と光を最大限に活かす床下空間』という機能と、「土地の記憶を可視化する杭」という意匠を両立するこの方法に至りました。
通常、杭の上に造るベタ基礎をあえて設けず、杭を地上に1.5メートルほど持ち上げ、その円柱状の杭の上に直接木造のフレームを置くという構想です。
これにより、ベタ基礎の費用を削減しつつ、次のようなメリットが生まれると考えます。

地上1.5メートルに持ち上げられた床下空間は、夏の熱気を地表から遠ざけ、涼しい風を建物内部へと引き込むための「風の道」となります。
高床式住居の知恵を現代に蘇らせることで、自然な換気を促し、快適な住環境を生み出すことができるでしょう。
これは、太陽系からの恵みが、この岡山という地で最適に活かされるための、必然的な建築の形と言えます。
また、私自身の子供時代の記憶にも通じますが、家の下にできたこの開放的な空間は、
雨の日でも遊べる秘密基地のような、子供たちにとって特別な遊び場となるはずです。
そこでの体験は、やがて彼らの個人的な「記憶の建築」の一部となります。
そして、この革新的なアイデアは、単なる夢物語ではありません。
先行事例がある工法ではありますが、私たちはこの方法を単なる技術として捉えるのではなく、
この地の歴史と風土、そして未来の住まい方を統合する哲学的な試みとして提案します。
杭が地上に露出する部分の「座屈」や「曲げ」に対する強度確保、そして木造フレームとの「緊結部」の設計が重要になります。
これらは通常のベタ基礎一体型とは異なる構造計算と、それに伴う部材の選定や接合方法の工夫が必要ですが、
現代の構造技術であればクリアできる可能性は十分にあります。
ベタ基礎を省略できることによるコスト削減、そして床下空間を利用した通風・蓄熱という環境性能の向上は、
まさに岡山の地に適した新しい建築の可能性であり、地域のロールモデルとなり得るでしょう。
このように、私たちの建築は、宇宙の彼方から届く光の粒子一つ一つ、地球の自転がもたらす時間の移ろい、そして山と海が織りなす風の動きといった、
「見えない大きな物語」の結節点となることを目指しています。
それは、私たちが住まう場所が、いかに宇宙と深く繋がっているかを意識させる、そんな存在となるでしょう。
干拓地の地盤の特性と、温暖な気候、豊かな風と光を最大限に活かすという目的が、杭基礎が露出した住宅という具体的な建築の形に繋がった理由として明確になりました。
建築とは、単なる構造物ではなく、その土地の地理的・歴史的文脈と深く結びつく結節点であると私は考えています。
まさに、「Geometry Nodes(地理学との結節点)」と言えます。